はっきりしない夏空が続いている。8月6日立秋を受けて、好例の多摩川アユの試食を行った。これは、アユの味から多摩川の水質変化を感じようと、1990年から個人的に毎年行っている慣例行事。
　試食するアユは、河口から23�qの多摩水道橋付近で投網を使って採取、塩焼にて経年変化を味わっている。

　開始した頃は、食べる気で焼いても上がる煙からすでに臭く、とても口にする勇気が湧かないシロモノだった。95年に初めて口にしたが、噛む前に吐き出した。焼いているアユの体から出る油が、強烈な化学臭を放ちとても飲み込むことができない・・・。
　この化学臭は、固形石鹸を焼いたような味と臭いで、下水処理過程で出てくる「汚泥活性」そのものの臭いだ。

　コンロの上で、2009年の多摩川アユがジュージューと焼けている。煙を嗅いでみると、汚泥活性の臭いはなかった。小ぶりだが、見事にバランスのとれた体格もしている。申し分のない「天然アユ」だ。確かめるように、そっと食べてみた。

　「ん？・・・うそォ、旨い〜ッ！」

　初めての味だった。汚泥活性の臭いが気にならないほど薄くなっていめる。普通に食べ物として旨い。嬉しくて胸が一杯になる19年目の味だった。

　多摩川は私たち流域住民が生む生活環境、自然とはほど遠い素性を持つ。流水は遥か上流でほぼ100％搾取され、流れが消えた川筋に約400万人分の下水処理水が再び川として流れている。数値的に見れば多摩川は川ではなく、限りなく下水の排水溝に近い・・・。

　多摩川の河川環境とは、とどのつまり私たち流域の生活スタイルそのものなのである。

　アユが年々美味しくなっていることを実感している。全国で天然アユの減少叫ばれる中、多摩川アユの止まらぬ進化は胸を張れる出来事だろう。ぜひ、都市の河川で起きている驚くべき環境再生を、多くの地域の方々に味わって頂きたいと願う。たとえ再生不可能と言われても、地域の知恵と努力でなんとかなる・・・諦めてはいけないことを、この味が伝える筈だ。

　2009年、多摩川のアユは忘れられない「味」となった。多くに知恵を傾け、おしまぬ努力を重ねた皆様へ、心から感謝の気持ちで一杯だ。(賢)