コレラ騒動

　維新後も人口増加が止まらない東京では、上水の水質悪化が大きな問題になり始めていた。導水路に生活汚水や動物の死体、糞尿などが流入し雨時には混濁が激しい。特に玉川上水は、後に太宰修が入水心中で有名になるような自殺の名所。すでに飲み水を送る導線らしからぬ様相だつた。

　ハード面でも、配水管が木樋で継目から汚染物質が混入したり、腐食した木樋が水に溶け出すなど、衛生上極めて悪かった。

　そんな上水不適切な水を受け取っていた東京で、明治19年にコレラの大流行が起こる。1858年(安政五年)にも20万人が死亡した「安政コレラ」があったが、28年振りの大流行となった。

　「東京都水道史」によると、このコレラの流行は東京だけで患者1万2000人、死者が1万人も出る大流行。8月に入ると、死者は毎日平均で100名を超え、中旬に入ると200名以上、9月になる頃には300名を超える被害が出た。

三多摩合併

　水道改良事業を機会に、政府は「この際水源である多摩川全てを東京の管理下へ」と考えるようになった。水源地は、現在の23区より西に広がる多摩地区。この神奈川県に属する「三多摩地区」を東京府に合併してしまおうと言うものだ。

　進め方もかなり乱暴だった。三多摩の住民や神奈川県への、事前の配慮もないまま話しは進み、明治26年(1893年)、淀橋浄水所建設が始まったその年に、政府は第四回帝国議会に次のような法律案を提出する。

「東京府及び神奈川県境域変更に関する法律案」

　内容は、神奈川県下武蔵国、西多摩郡・北多摩郡・南多摩郡を東京府に移し、第五条ではこの変更にともなう選挙区や議員の資格に関する事柄が挙げられ。文面はいたって簡素だが、内容は県域を変更する重大な内容。しかも地元の意向はまったく考慮せず、政府が一方的に作成したものだった。

　そのため審議は混乱。しかし、結局半ば強行採決の形で決着して法案は可決された。政府が東京の上水道安全確保を理由に、神奈川から三多摩地区を取り上げる形で幕を閉じている。